カールツァイスイエナ製5cmF2ゾナー、ブラックニッケル。写真に写っているカメラ、Contax I(ブラックコンタックス)時代のレンズである。同じスペックでも鏡筒の違うバージョンがある。
私はこの4つしか持っていないが、おそらく他のバージョンもあると思う。
『コンタックスのすべて』によるとF2とF1.5のゾナーが発売される前はF3.5が「明るいレンズ」とされていたそうで、ゾナーの登場は当時センセーションを巻き起こしたらしい。ちなみに同書によると当時の販売価格は165RM。
↑このレンズの製造年はシリアルナンバーから1934年。
下記リンク先、ドイツ史が専門のHarold Marcuse教授のウェブサイトによれば1934年当時のUSドルとライヒスマルク(RM)の交換レートは1USD=2.54RM(年間平均)とのこと。165RMは$65くらい。
https://marcuse.faculty.history.ucsb.edu/projects/currency.htm
この値をアメリカ労働統計局サイトのインフレ計算機に入れてみる。
https://stats.bls.gov/data/inflation_calculator.htm
当時の$65は現在の$1,451相当の購買力と出た。高級品だったようだ。こうして見ると、本当にカメラは庶民の手が届かないものだったのだなと実感する。標準レンズ一本で20万円なんて大変だ。と書いてから最近各社から発売されるレンズも変わらない価格帯であることに気付き青ざめる。きっと当時も背伸びして手を出していた庶民がいたことだろう。
なお5cmF1.5、通称いちごゾナーは当時305RMで、同様に換算すると現在の$2,680。
前回および今回取り上げるこのレンズは、絞りリングの位置が他のタイプと違う。ビオゴンと同じ形式だ。好きなデザインなのだが、実は回しづらい。
レンズの状態としては年代物であることを考慮すれば悪くない。蛍光灯にかざした程度では曇りは見えない。
しかし、このように透明に見えるレンズもスマホのLEDで照らすと……
曇っている。まあスマホLEDで照らすと新品レンズでも薄曇りが見えたりするから。光が強すぎて必要以上に見えてしまう。
この写真を見てしまうと信じられないかもしれないが、この程度なら意外と問題なく写る。薄曇りのレンズは分解清掃しても撮影結果が変わらずがっかりすることが多いのだ。
ここからは、このオールドレンズを現代の5,000万画素デジカメに付けてどれくらいの性能が出るのかチェックしたい。
解像力 Resolution
中央はF2だと少しフレアが出るものの十分解像している。絞るとフレアが消える。元々解像しているため目に見えての向上はない。周辺は中央に比べると甘い。F4まで絞っても流れている。F11まで絞ってようやく安定する。もっともこれは5,000万画素の写真をピクセル等倍近くまで拡大した際の話であり、拡大しないで見る分にはF4まで絞れば十分だ。
百年近く前のレンズであることを思えば驚異的な写りと言えよう。↓こんなに小さいし。
ボケ Bokeh
ボケに違和感はない。きれいにボケている。
ただ拡大してみると、
ちょっと怪しい。非点収差的な像のブレを感じる。
これはコマ収差か。
こうやって拡大すると気になると思うが、一枚の写真として鑑賞する分には問題ない。非点収差が大きいと流れてしまいちょっとうるさくなるのだが、このレンズはそちらの方はあまり大きくないようだ。
↑これは絞り開放での玉ボケ。
絞りの形状は円形。
だから絞っても玉ボケ。
歪曲 Distortion
非対称型のレンズ構成だから糸巻き型の歪曲収差が発生しやすい、というwikipediaの記述通りの糸巻き型歪曲。中央が膨らむ樽型とは逆に、中央に向かってくぼむような歪みが生じる。この写真では左端と下端の直線を見ると分かりやすい。僅かに弓なりになっている。文献複写などの特殊用途を除き、実際の撮影でこの程度の歪みが気になることはほぼない。
作例 Sample gallery
明暗の差が激しい場所を狙って撮るとおもしろい。
川辺で写真を撮ろうとして鞄を開くとカモメがバサバサやってきた。私を餌の人と勘違いしたのだろうか。
仕方ないから撮影してやる。
自分から来たのに近付くと逃げる。複雑なカモメ心。
↑左上のボケ、ほんの少しざわつく。写真として悪い影響がない程度。
役目を終えて朽ちていく門。代官山駅付近。かつて向こうに何があったのだろう。
左上に大きなゴーストが出ている。まあ夜でも虹が写るレンズだと思えば。
何カン便か分からない人もいるだろうか。