fortia’s カメラレビュー

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モノクロデジカメの何がいいのか

ペンタックスとライカモノクロ専用デジカメを発表して愛好家の間で話題になっているが、マニアでない方々からするとなぜ白黒写真しか撮れないカメラをありがたがるのかまったく理解できないと思う。「白黒写真撮るなら普通のデジカメやスマホのモノクロモードでよくない???」というのが自然な反応だろう。

だが違うのである。

モノクロ専用デジカメの出力する画像は、普通のデジカメのモノクロモードで出てくる画像やカラー写真をソフトで白黒に変換した画像とは根本的に違う。そもそもイメージセンサーの構造からして違うのだ。

デジカメのセンサーは拡大してみると小さなブツブツが無数に並んだ構造になっている。

ジャンクデジカメから取り出したセンサー

センサー左上にある極小文字を拡大
ソニーの1/2.5型600万画素CCD、ICX624

センサー中央部分を拡大

この一粒一粒が画素であり、それぞれが光を電気に変える役割を担っている。光を電気に変えるのだが実はこのセンサー、色の違いを判別できない。光が強いか弱いかしか分からないのである。だからセンサーの前にカラーフィルターを付けて、あらかじめ通過する色を限定した上で、色ごとに光の強弱を記録するような仕組みにしている。

イメージセンサーのイメージ図(iPadのFrescoで手描き)

赤緑青(RGB)の三色の輝度(光の強弱)を記録する。すべての色がその3つの値の組み合わせで表現される。このRGBでの色表現については少し前の記事で説明した通り。

カラーフィルターの絵を見て気付いた人もいるかと思うが、赤画素、緑画素、青画素はみな同一平面に並んでいて、1画素あたり赤緑青のいずれかの輝度情報しか取得できない。RGBの3つの値が揃ってはじめて色を表現できるというのに、これでは1ドットの色を表すのに3画素必要になってしまう!

もしや1,000万画素カメラが出力する画像は300万組程度のRGB値しか持っていないのだろうか?

いやまさか。1,000万画素を謳うデジカメを買って300万画素の画像データしか出てこなかったなんて話は聞いたことがない。まれにあるがほぼない)

普通のデジカメはRGB値をちゃんと画素数分持っているのである。しかし、センサーとカラーフィルターの構造を見る限り、それは実現不可能に見えるのに一体どうやっているのだろう。

足りない色情報を周辺画素から推定して補っているのである。

一般的な撮影場面において、色や明るさの急激な変化が繰り返される被写体は多くない。青を100と記録したB画素に隣接するG画素とR画素は青の輝度を記録できないが、1画素ずれるだけでまったく別の色に変わる場面は考えにくいから「まあたぶん隣も青100に近い値になるよね」みたいな乗りで隣接するG画素R画素が持つべき青の輝度を決めていく。実際は乗りではなく計算で決めているがまあそんな感じ。

RGB画素補間のイメージ(FRSC手描)

デジカメもスマホカメラもみんな、それこそほぼすべてのカメラが、この画素補間により写真を作り出している。補間なので当然誤りもある。急激な輝度変化が繰り返される被写体は苦手で、変な模様を描き出すこともしばしば。

細かい格子模様のスーツ生地を撮影すると、そこにあるはずのない色が模様のように現れる

明暗の境界となる輪郭部分もぼんやりしがちになる。ピクセル等倍鑑賞でもしない限り問題にはならないが、人によってはこれが決定的な短所と映る。

説明が長くなったが要するにスマホや一般的なカラーデジカメが出力する写真はある意味で作り物なのである。

ひるがえってモノクロ専用デジカメ。これはカラー情報がいらない。色がいらないからセンサーからカラーフィルターを取り去ってしまえる。カラーフィルターがないということは画素補間もいらない。つまり作り物ではない本物の写真が得られるということだ。

画素補間のない純度100%キレッキレの嘘偽りない写真が撮れる。それが愛好家がモノクロデジカメをありがたがる理由なのである。

 

余談

今回ジャンクデジカメのセンサーを撮影した装置は↓これ。

蛇腹の先端に顕微鏡の対物レンズを付けて、蛇腹後端にはα1を接続して撮影した。

 

ネット上には今回私が撮影したのよりずっとすばらしいセンサー写真がある↓

https://landingfield.wordpress.com/2013/02/06/peeping-into-pixel-a-micrograph-of-cmos-sensor/